20世紀的脱Hi-Fi音響論(第二夜)

 我がオーディオ装置はオーデイオ・マニアが自慢する優秀録音のためではありません(別に悪い録音のマニアではないが。。。)。オーディオ自体その時代の記憶を再生するための装置ということが言えます。「ホーム・オーディオの夢」はオーディオの基本的なことに関する私なりの考えをを集めたものです。


ホーム・オーディオの夢
【フルレンジ】 【モノラル再生】 【タイムドメイン】
 【スーパーツイーター】  【改造CDプレイヤー】
(前夜)モニターの方法
(第一夜)録音年代順のレビュー
(第三夜)闘志を燃やすジャンル
(第四夜)トーキー・サウンド
(第五夜)華麗なる古楽器の世界
(第六夜)70年代歌謡曲
(後夜)オーディオの夢の行く末
(延長戦)結婚とオーディオ
掲示板
。。。の前に断って置きたいのは
1)自称「音源マニア」である(ソース保有数はモノラル:ステレオ=1:1です)
2)業務用機材に目がない(自主録音も多少やらかします)
3)メインのスピーカーはシングルコーンが基本で4台を使い分けてます
4)なぜかJBL+AltecのPA用スピーカーをモノラルで組んで悦には入ってます。
5)映画、アニメも大好きである(70年代のテレビまんがに闘志を燃やしてます)
という特異な面を持ってますので、その辺は割り引いて閲覧してください。



ホーム・オーディオの夢

 レコードというものが生まれたときからホーム・オーディオというのはありました。最初はオルゴールのように音の出る小物。しかしある時点から演奏家を家に呼び込むホーム・コンサートのようなものに変わっていきます。古くはサロンという場所があり、そこでは物好きな貴族たちが音楽家を私邸に呼び止めて演奏会を開き、芸術について夜を徹して話し合うというものでした。もっとも一般庶民のあいだには酒場の余興というものがありました。巷に流れる音楽は今ではBGMが主流ですが、酒場に置かれたジュークボックスからは最初は当時のボードビルたちの演奏が流れていました。こうして音の出る機械は家々を巡って演奏家を連れ歩くようになります。時代によってその音質も性格も異なりますが、演奏家とパーソナルな関係を保ちたいと思う人の心はどこまでも続くようです。とはいってもそれは夢。嘘も演技も全てを含めてマイクに向かった人たちの喜怒哀楽が華やかに甦ることがあるのはほんの束の間です。その失われた時間を求めてオーディオは今日も時間を刻みます。今という時と違う時間の流れた過去との邂逅が浮び上がるのです。

 色々とゴチャゴチャしてますがメインシステムは以下のとおりです。
 中級機がゴミのように溜まってる情況です。
 ■ステレオ鑑賞用

 CDT CEC TL51X(相島技研改造品)
 DAC CEC DX51 mk.II
SAGE音響 STI-1227
 プリアンプ RANE MP2016
 イコライザー ORAM HD-Def35
 パワーアンプ Boulder 250AE
 スピーカー 富士通テン TD512
TakeT BATONE(スーパーツイーター)

 ■映画観賞用(モノラル)
 DVD SONY DVP-S717D
 パワーアンプ Motiograph MA-7515
 スピーカー JBL D130
Altec 802C+511B



 ■モノラル音声用(スピーカーのみ)
 スピーカー MicoroSolution Type-S
パイオニア PE-16M


   



【フルレンジ】

 フルレンジ・ユニットは日本語で直訳すると「十分帯域装置」というヘンテコな訳になるのですが、要はひとつのユニットで聴覚上十分な帯域を再生するスピーカーのことです。一般のオーディオ用スピーカーに付いてるツイーターとかウーハーとかがありません。全てとは言っても「(第一夜)録音年代順のレビュー」に紹介したように再生レンジは時代によって様々です。一般的にシングルコーンのスピーカーがフルレンジと称されるようになったのは戦後のHi-Fiが行き渡った以降のことのようで、逆はマルチウェイ・システム(複数回路設備)ということになります。マルチウェイ・システムがHi-Fi再生の王道を突き進む間、フルレンジ・ユニットはずっと庶民のなかで使われ続けました。逆にいえば時代性を色濃く残すユニットが多いわけで、私にとってはそれが大きな魅力になっています。

 ただ私の目的は最高ソースで最高の音質を楽しむという手合いではなく、雑多な素材を幅広く楽しむということにあるので、「中の下」という極めて日本的な趣味に落ち着くことになります。結局、音声モニターという範囲のものを選んでいるようです。


Westminster

D130

PE-16M

TD512

Type-S

 しかしながら庶民派で通るフルレンジには音響上の利点もあるらしく以下のようなことが知られています。

1)全ての再生領域で点音源が得られ、マイクの集音情況が正確にを再現できる。
 モノラル音源でも音の遠近が正確に聞き取れます。このため実際のマイク位置や生音の音量が把握でき、演奏家の評価がしやすくなります。またステレオ音場をピンポイントで再現するので、ホールの情況などの録音環境の把握にも適しています。ただし再生領域の限界もあるので、あくまでも総合的な評価で選ぶべきように思います。

2)ネットワークによる位相反転がなく、人間の声が自然に再生される。
 マルチウェイの音響理論はもとを辿ればラウドネス曲線の補完にあるわけで、ネットワークのクロスオーバー位置も2〜3kHzというのが良く選ばれます。これが中高域の位相のねじれを生じさせ、2way以上のスピーカーのキャラクターを左右しています。通常Hi-Fiの評価で言われるバスドラとシンバルですが、各々の再生領域ではしっかりしていても、人間の声のように母音と子音が異なる周波数帯で同時に発音されるような場合には、子音が目立つ母音が籠もるなどの声の不自然さが出てきます。フルレンジは人間の声を再生するのにまさに打ってつけのスピーカーなのです。ただし非人間的な音、大太鼓や高調波などは音響的に曖昧になります。

3)電気的なインピーダンスが平滑であり、アンプのドライブ力を過大に必要としない。
 最近のアンプは非常に大出力で、スピーカーに実際に流しているのは10Wも必要としないにも関わらず、大きなパワーマージンを採っています。これはウーハーのボイスコイルのストロークを増やすことで低音のリニアニティを稼ぐ方式が一般化したことで、fo付近のQが下がった分だけ低域への電力供給の増大を補うのと、大ストローク時の逆起電力にビクともしない電力トランスの安定度が求められた結果だと思います。このため通常の歪みのクリッピング・ポイントで求めるアンプの出力があまり意味をなさなくなり、瞬時の電力供給に備えたスルーレイト保障やアンプ側のさらなる低インピーダンス化を招き、結果的に定格出力の大きいアンプが増えたといえます。そうした背景からするとフルレンジの電気特性は1950年代からほとんど変わっておらず非常に扱いやすいシステムであることが判ります。ただし極端な大出力には向いておらず、10Wも入れれば破綻をきたすことも多いので2〜3Wを限度に使うのが適当です。その意味では真空管シングル・アンプでも十分にバランスよく鳴るわけです。


 以上、フルレンジについての簡単な所見を書きましたが、私自身の出発点が普通のオーディオとは異なるのでほとんど参考にはならないと思います。ポップスの評論をしてる人には使い慣れたラジカセで常時聴いている人もいますが、私自身そういうやり方は正論だと思います。ようするにそれで音楽の内容が把握できれば合格なわけで、算数は100点でも図工はてんでダメ。。。というよりも、全部が平均して70点くらい採れるという平凡なほうが、何が普通で何が特別なことなのかの判別がついて良いわけです。20世紀のレコードを通観するとき、そうした新しい奇抜な面と豊かな伝統を感じさせる両面があるわけですが、フルレンジ・スピーカーの再生は伝統側の連なりの線をしっかり気付かせてくれる点で有益です。


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【モノラル再生】

ステレオと比較されるモノラル音源
 モノラルという用語はステレオが生まれたときに相対的にできた言葉らしい。モノラルという言葉を聞くと、今の人にとっては単調とか古臭いということを連想するかもしれません。しかし私にはどうしてもモノローグという言葉を連想せざるを得ない。それは記憶の彼方からの独白に耳かたぶけるひと時なのです。モノラル再生には一個人の実存が色濃く反映される不思議な魅力があります。
 私の場合、所有するCDの半分はモノラルですし、一部のステレオ音源もステレオで聴く必然性をあまり感じないほどのモノラル狂です。最近の5.1chでさえモノラルにミックスダウンする算段を考えるほどです。それほどにモノラルで再生する音には吸い寄せられるような説得力があります。ステレオだと疑似音場の所為かリスニング位置を外すと見事に音響バランスが狂いますが、モノラルにはそういうことは皆無で常に安定した響きを出します。音の押し引きや余韻のなかでの表情の変化がステレオ音場の拡散で薄まることがありません。もうひとつは余計なエフェクトが抜けた分だけ音の表情が素のままで聴けることです。もちろん素のままでは美しい意外にも汚い部分も全て聞こえるわけですが、私はそれで良いように思います。逆にいえば今の録音はステレオ機器のために色々と工夫をしているのですが、そういう化粧を一度落として聴くと本来の音のアタックや表情の骨格がみえてきて、演奏や演技の主体的な部分に触れることができるのです。この主体的な表現の粋を聴くことが一個人の独白に肉薄する方法であるように思うわけです。
 このことはなんといっても吹き込んだ本人は自分の表現するものを知られたく思って録音してるわけですから、それに応えて全ての要素を聴き取ることも良いように思います。またそうしたことに耐えられる一流の芸人の居ることも私のモノラル狂を深める原因のようです。

モノラル音源の大衆性と歴史性
 しかしながらステレオvsモノラルという図式以外にも、音源のフォーマットがCD、DVDになってから、かなり手間なことが出てきました。それは本来の音源と再生装置とが関係なく共通のフォーマットで20世紀全般の録音が聴けるようになったことです。モノラル音源と一口にいっても蓄音機、ラジオ、レコード、映画、テレビと20世紀のメディア全般を指しています。そしてそれぞれには固有の再生装置があったわけです。CDのフォーマットは記録精度としては十分です。しかし再生側のキャラクターまでは制御できません。本来のフォーマットに最適なダイナミクスとトーンを得るには、それに携わった人の歴史や文化というものに興味を持たないとやっていけないし、上手くいくと興味も一層湧いてくるわけです。実はステレオやサラウンドはいずれもその時代の最先端の音響技術を投入して過去の録音と決別しますが、モノラルはそうした歴史性が一気通観でダイレクトに追える楽しみがあります。
 そうした悪戦苦闘ぶりをこのホームページで描いているわけですが、ただ古い物好きという枠を越えて、過ぎ去った古い時代のリアリティをどう捉えたらいいか、これは人間の記憶をもってしても難しいことで、自分なりの答えを出していくほかありません。ただ単純に言えることは、見掛けはメディアの外見をなぞっているようでも「あの時代はこうだった」というダイナミズムを、聴く人に手軽に伝えられる状態を保ちたいという思いがあります。
 デジタル音源のアルヒーフには、アナログ機器のレシピと合わせて提示することがとても必要に思っています。そのためのアプローチに色々な方法がありますが、1950年代というのはそうしたアプローチが百花繚乱する境界領域であったように思います。人間の視点からみた音響の在り方というべきでしょうか。今はバーチャル・リアリティの視点から音響理論を心理学や生理学に基づいて探求しているようですが、そうした時代にこそ過去のアナログ技術に学ぶことが多いように思います。

モノラル再生にみる公共性
 鳴ってる音の客観性とパーソナリティのバランスは、オーディオを趣味とする人にとって永遠のテーマです。この辺のノウハウには業務機のほうが一日の長があるようです。私の持ってるスピーカーはスタジオやPAで実績のあるものが多いですが、聴いてコレだと思う一種の決まり事のようなものがあります。ひとつは100Hz〜5kHzの帯域でのタイミングが揃ってること。もうひとつは音のダイナミクスに遊びが無くて良く制御できてることです。低音が良く出る、高音が良く出ると言われるユニットは、実は付帯音で脚色されているものが多いです。そして音楽のタイミングを乱して音が止まったように聞こえます。リズムの押し引きが明瞭に出ることが本来の楽音の姿だと思います。モノラルでの再生にはこの押し引きがしっかり出てないと、聴いてる内にBGM以下のつまらない音楽に成り下がります。そのテンションを保ちつつ表情に破綻がないというのが業務機ならではの持ち味だと思います。 ステレオ装置がラジカセ、ミニ・コンポとダウンサイズされ極限的にパーソナルなものになった今だからこそ、業務用機器で質の良いモノラル音声にあらためて耳を傾けてみることをお勧めします。

 モノラル音源にはいくつかの種類があって用途と再生システムが異なります。いずれも1920年代から今に至るまで広く親しまれてきた再生方法です。装置を無闇に高性能化、ミニチュア化の前に、その音が再生される場の雰囲気や人々の気風など、20世紀の音楽のルーツを思い描いてみるのもまた粋なものです。
◆ラジオ、テレビ用の放送音源
 1〜5人を対象にラジオ、テレビ据え付けの小型フルレンジがほとんどで出力は2W程度で十分です。
 音抜けが明瞭で音声モニターとして優良です。
◆ジュークボックス、ミュージック・バー用の簡易PAシステム
 10〜50名を対象に25〜30cmのワイドレンジ・ユニットと、たまにツイーターが付いて出力は10W前後です。
 今でもボーカルやギターアンプ用として今でも重用されています。
◆映画、コンサート用の劇場用システム
 100〜500名を対象に38cmのウーハーに大型ホーンを付けて出力は最大40〜100Wに及ぶこともあります。
 大きなホールで鳴らすため音は粗めでも指向性は広く出すように設計されています。

 上記のシステム構築はいずれも時と場所を音で表現するような一種の身分制度的なニュアンスがありました。ですから現在のオーディオのような音の鳴る嗜好品という部類ではなく、実用に即した音響特性を備えていることでコストと性能のバランスが取れていたというべきだと思います。映画館は数百人で使い倒すために皆で利用するための設備であり、ジュークボックスも数十人が代わる代わるリクエストすることで成り立つ機器でした。そういうパフォーマンスを持つ機材に適したカタチに録音されたソースが、今になって家庭用に雪崩れ込んできたわけですから、CD&DVDによってもたらされた情報化社会の功績には意外な側面があることが判ります。しかしそれは身体をもたないアイディアだけの情報です。身体で感じない感性だけの音楽をもういちど問い直す時期に来ているように思います。




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【タイムドメイン】

 実は私自身、富士通テンTD512というスピーカーをメインに使っています。どうもこれはタイムドメイン理論によってライセンスを受けた製品らしいのだ。そもそもタイムドメインとは何か?と問われれば、単純に「時間領域」と訳すしかない。つまり時間領域での特性に注目した製品というものらしい。では時間領域での特性とはどういうものだろうか?これはかなり難問です。
 一般に時間領域での測定項目の説明はStereophile誌に詳しく、各レビューには"In the time domain"という書き出しで示されます。タイム・コヒレンス(時間的一致性)とも表現されます。この測定方法はStereophile誌の執筆者John Atkinson氏によってAESの部会で1997年に発表され標準化されてきたものです。("Loudspeakers: What Measurements Can Tell Us?And What They Can't Tell Us!," AES Preprint 4608)
 実際にこの測定項目に従った時間特性に配慮した製品群は1995年頃から発売されていますので、2001年に発売された富士通テンTD512は2世代目と言えましょう。とはいいながらニアフィールド・モニターでは多分最初の製品で、一般的にスタジオ用と言われる機種はインパルス応答の立ち上がりや制動性には優れていますが、時間特性までは配慮されていません。その意味ではまだまだ稀少なものなのでしょう。

 上記の時間領域での測定項目には主に3種類があります。
 @インパルス応答(Impulse response)、Aステップ応答(Step response)、B@のFFT解析グラフ(Cumulative Spectral Decay(CSD), Water fall plot)
E社 超優秀
B社 共振大
H社 位相反転
F社 返りを最小限に

 このうちタイムドメイン社の注目しているのは@インパルス応答のみです。一般的にはAステップ応答のほうが周波数特性との関連性が判って便利ではあるが、箱の共振やユニットのリンギングなどの影響を見る場合にはインパルス応答のほうが顕著に出るようです。単純にインパルス応答の積分値がステップ応答、FFT解析結果がCSDという理解でも良いように感じられるので、インパルス応答で代表させているのかもしれません。実際、フルレンジ・ユニットは綺麗なステップ応答を示すのですが、高域で分割振動が生じるのでリンギングが激しいです。逆にマルチウェイではインパルス応答の位相が乱れたり、ステップ応答がユニットの数だけくびれます。マルチウェイでの時間領域での歪みは過度的な情況では意外に大きく蓄積されるようです。
 インパルス応答はインパルス波(パルス状の直流電流)に対するスピーカーの音響エネルギーへの変換特性なのだが、方形波には超高域からDC成分に急激に変化する特徴があるので、インパルス波形によって音響的には超高域(正相)〜DC〜超高域(逆相)という変化が瞬時に引き起こされます。自然の音響でのインパルス波は風斬り音に似て人間の耳には感じにくいのですが、一種の気配とかに関係する音でもあります。ただ風斬り音とか気配とか言われても、実際にはこれだけだと何のことやらサッパリ判りません。

 スタジオ機器の歴史を辿ると、最初に小型でフラットなモニタースピーカーとして開発されたBBCモニターLS3/5sは、バッフルへのフェルト貼付けやネットでの音の拡散で特性をチューニングしてあって、それまで箱ごと鳴らすのが普通だった小型スピーカーに方向性修正を与えています。(これは1960年代にアメリカのFM局でエアサスペション方式の密閉型ブックシェルフのAR-3が使われ出したことへの応答のように思われる) これによってニアフィールドでの試聴では、インパルス応答が短くコンパクトだと音場の描き分けが優れている、という単純な見識ができてタイトで多少カン高い音質のものが好まれてきたように思われます。さらにバランス・エンジニアの定番スピーカー、ヤマハのNS-10Mは中高域に小さな山を造っていてクリアネスを増してます。デジタル時代に入ってからはこういうデフォルメを嫌う人が出てきて、フラットネスを増したニアフィールド・モニターが多数出てきました。結局デジタル時代に入ってもポスト70年代のモニター特性で20年間凌ぎを削ってきたという感じがします。音楽スタジオにはニュートラルな状態が決まると極めて保守的になる傾向があります。そこにインパルス応答での位相特性に配慮したキワモノが出てきたため、一種の戸惑いと賛嘆の声とが入れ混じっているのが現状ではないでしょうか。
 とくにサラウンドになると漫然とした周波数特性だけでは空間表現が得られず、スピーカー毎の時間特性がかなりシビアに効いてきますので、DSP処理でのタイム・アラインメントの整音など様々な技術的課題が含まれています。富士通テンの開発者も最初はカーステの車内音響をDSP処理する技術から入って、スピーカー単体レベルでの時間領域での特性改善に取り組んでいったそうです。こうした成果の一部が純粋なオーディオ用として売り出されたわけですから、一種のサービス品という捉え方もあるように思います。実際に他のタイム・コヒレンス(時間的一致性)を考慮したオーディオ製品は非常に高価なものがほとんどです。


 こうした時間領域の特性に配慮したスピーカーの特徴として以下のことが言われます。
1.低域から高域にかけて音の立ち上がりが均一で微少レベルでの再現性が良い
2.定位感や音場感の再現性に優れる
3.ユニットとネットワークの整合性に掛かる手間とコストが増大する(現在も販売されてるのは十数種のみ)
4.音の伸びやパワー感に欠けるという感想も多い


 そこで私流にタイムドメインを理解すると…
1.録音でのマイクと演奏者の距離感が判るので奏法(唱法)の分類・比較ができる
2.エレキ・ギター、アナログ・シンセなどレンジの狭い楽器の表情が掴みやすい
3.エフェクターやイコライザーの効きが明瞭なのでソースの調整がしやすい
4.昔の録音でもボーカルを参照してニュートラルにできる
 …ということで、幸福の無限ループへと突入していくわけです。


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【スーパーツイーター】

チョ〜〜〜〜高域の世界
 TD512を購入したあとは20kHzはおろか「16kHz以上ナニソレ?」って感じでした。でも色々な人が小型スピーカーにスーパーツイーターを足してるではないですか!! これはどういうことかと。。。よく考えてみると先のタイムドメインとも関連するのですが、可聴領域以上の高音は、持続音では聞こえない(意識されない)のがパルス成分としてはどうやら聞こえているようです。実際大きな音で長く聴いていると耳栓をしたような圧迫感を感じるときもあります。(アララ気を付けないと。。。)つまり聴覚としては波形として振幅する以前の風斬り音のような音の触感のようなものを付加するのです。楽器でいうと、打楽器系のカツーンとかパシャンとかいう音以外にも、フルートや尺八の息音やバイオリンの弓が触れるときの音など、そういうほんの瞬間の出来事です。しかしこの音の触感に関わる情報は、複数の楽器が重なると各楽器の音色の描き分けに大きな差が出てきます。楽器の発音形態が複合的な古楽器や民族楽器の録音にも効きます。つまり音楽のエモーショナルな部分の描き分けが明瞭なタイムドメインに、音色の描き分けのフレクエンシー・ドメインの理屈を巧いこと加えるのです。

 という言い訳は他に置いといて、TD512をバージョンアップしたTD712zをたまたま試聴した結果「こういうのもアリなんだ」とすっかり肩すかしを食ったのが正直な感想で。。。つまり、その。。。ドンシャリだったんです。そこで狙った品はTakeT(テイク・ティーと読むらしい)の造ったBATONE(コウモリ音?)という製品。振動板に圧電フィルムを使ったハイテク製品で20kHz〜60kHzを再生する。通常のオーディオ機器でこの領域を強調すると、スピーカーの特性上リンギングを誘発してうるさい音になります。パルス音は得もすると黒板のキィーという音にもなり、金属系のツイーターには少なからずこの傾向があります。BATONEの良いのは元のスピーカーの音調をあまり害することなく効果を得られることで、ただただ空気感を加えるということ。一見して効果の説明しにくい製品ですが、飽きたら勝手に取り外せる気軽さもあって加えてみました。(いちよ他のスピーカーで試聴してから買ったのですが。。。) しかし効果は覿面。。。びっくりしました。通常云われる聖堂での録音に相性がいいのは当たり前として、とくにノスタスジックな思い入れのある古い録音でパルス成分の活性化に役立って、スタジオから卸立ての新品ピカピカという感じには涙モノでした。TD512自体は音場型のスピーカーですが、高域の指向性が狭めに設定されているところ、これにさらに空気感が加わるというのがミソです。


目玉おやじの頭上に。。。ゆるしてチョンマゲってかんじ。

予想される周波数特性
(中高域はEQ補正でおとなしく)



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【改造CDプレイヤー】

カユイところに手が届かない
 最近CDプレイヤーをCEC社のTL51Xに買い換えました。学生の頃から20年間のうち、これでCDプレイヤーは4台目になります(平均で7年/台なので長持ちしてるほうでしょう?)。CDプレイヤーといえば天下御免のハイテク&ブラックボックスで完成品以外を想像するのはとても難しい。そんなところにベルト・ドライブというだけでも特殊なのに、加えて相島技研というチューンアップ専門屋による特別仕様。内部クロック精度を上げ、制振合金部品でいたるところに防振対策を施してあります。結果は立ち上がりの明晰さと高域の繊細さが両立するとても面白い機材となっています。CEC社のCDトランスポートはTL51Xより上はTL-0という青天井の特別受注生産品になるので、改造仕様はちょうど中級クラスのものになるようです。思えばCECの御用達のドイツ人設計者カルロス・カンダイアス氏も、かつて既製品のDAC載せ換え改造ショップを経営してたというので、そこら辺の対応は比較的緩いのかもしれません。またCEC製品はヨーロッパが最も大きい市場とも聞きました。



トップローディングのベルト・ドライブ方式
重石も蓋も手動のアナログ構造


ピックアップ周りは共振対策で切断
細かい仕様はココを参照

 これまで5万円のDVDプレイヤーで聴いていた矢先に、こういう振動対策をした改造品ごときで何が変わるのか。。。と思ったが、実際にはかなり変化があります。音色そのものはスピーカーの支配力が強いのと、パラメトリックEQでの補正もあるのでトーンの問題もそもそも自由ですが、本質的な違いは音が柔軟にしなるようになり、デュナーミクが明確になると同時に解け合いもよくなるという感じです。普通に云われる音がダイナミックになったとか解像度や奥行き感が増した(というか、そういうトーンに調整してある)というよりは、音楽が静寂なときでも表情をもって鳴るようになったという感じです。ただ弱ったのは、@クロック改造の所為かスーパーリンクでDACからクロック制御をかけると頻繁に音飛びが起こる(CD蒸着部の偏心が大きい海外プレスは特にひどい)こと、A振動に関わること以外にも筐体の傾斜や温度変化など周囲の環境に敏感に反応する、等々です。よく振動対策で云々ということをこれまで眉唾モノで聞いていたのだが、柔らかい敷物を置くと立ち上がりが鈍くなり、硬い物の上に置くと幾分かの共振を拾うようです。そもそもベルト・ドライブ自体が光学ピックアップを機械的にフローティングする発想からきているので、サーボ制御による補正機能が緩めにできているのかもしれません。それだけに外因による振動や熱伸縮という問題に敏感に反応するようにも思います。
※@の音飛びの問題は日に日におかしくなるので疑問に思ったのだが、電源を付けっ放しにしとくとエラー訂正部分のメモリにバグが蓄積するらしく、一度電源を切ってメモリを飛ばすと落ち着くようです(それでも皆無ではない)。パソコンではままあることなのですが。。。

 もうひとつはDACに接続する際のデジタル・ケーブルおよびデジタル・フィルターの違いがあります。PCM録音はデータを矩形で伝達し、これを実際の波形に積分近似してアナログ出力します。この矩形波の伝達はアナログ伝送ケーブルを使用しますとスルーレイトが鈍ったりリンギングを起こしたりします。このピーク成分を嫌うためDACのバッファーアンプに高周波に過敏でない真空管を使ったりします。実はデジタル伝送ケーブルでも同様なことが起こり、個人的な感想では高域の音質に変化が出るように感じています。伝送規格でも民生用のSPD/IFと業務用のAES/EBUでは出力電圧が異なり、AES/EBUのほうが明朗な音になり、SPD/IFは低音に力のある感じに。私個人では、古いロックや歌謡曲ではSPD/IFに古いケーブルを使って高域を鈍らして厚めの音にし、新しいデジタル録音のバロック音楽などはAES/EBUで繋いで聴いています。デジタル・フィルターも通常のものは輪郭を強調するのでロック向き、スロー・ロールオフは音が柔らかくなるのでクラシック向きという感じに分けています。


(ブラックボックスゆえに判らない素人の推察)



       正常な矩形波



    高域丸まり   リンギング
 想像してみるにこんな感じだろか?

      
    普通?     リンギング?


PCM波形の積分はモノリスに似てる?



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