20世紀的脱Hi-Fi音響論(第六夜)

 我がオーディオ装置はオーデイオ・マニアが自慢する優秀録音のためではありません(別に悪い録音のマニアではないが。。。)。オーディオ自体その時代の記憶を再生するための装置ということが言えます。「闘志を燃やすジャンル」はオーディオという枠には到底収まらない音源へのアプローチを集めたものです。以下、概略ながら追ってみました。そのうち歌謡曲は異常に増殖したため夜をまたぐことになりました。


闘志を燃やすジャンル
 【70年代歌謡曲】    → 元の?闘志へ  
(前夜)モニターの方法
(第一夜)録音年代順のレビュー
(第二夜)ホーム・オーディオの夢
(第四夜)トーキー・サウンド
(第五夜)華麗なる古楽器の世界
(後夜)オーディオの夢の行く末
(延長戦)結婚とオーディオ
掲示板
。。。の前に断って置きたいのは
1)自称「音源マニア」である(ソース保有数はモノラル:ステレオ=1:1です)
2)業務用機材に目がない(自主録音も多少やらかします)
3)メインのスピーカーはシングルコーンが基本で4台を使い分けてます
4)なぜかJBL+AltecのPA用スピーカーをモノラルで組んで悦には入ってます。
5)映画、アニメも大好きである(70年代のテレビまんがに闘志を燃やしてます)
という特異な面を持ってますので、その辺は割り引いて閲覧してください。




【70年代歌謡曲】(その一)

 文化的背景
 歌は世に連れ世は歌に連れと云われますが、世代によって歌謡曲の印象は異なるようです。1968年生まれの私は典型的なテレビ世代で、ヤング・オー・オーやスター誕生など見守っていたものです。後から振り返ってこの時代の歌謡曲を覗き込んでみると、子供時分で知ってた範囲は表向きの世界で、アングラ的な要素(今ならインディーズと呼ぶ)は意外に世の中に溢れていたという感じがします。フォークからアイドル路線に流れる途上に現われた、不思議な素人臭さが漂う60年代後半から70年代前半の歌謡曲(フォーク、ロック、アイドル、ニュー・ミュージック)は、当時のキーワードである「風」「失恋」「潮騒」「学生時代」など、どれをとってみても実に掴み所のない世界のひとつでした。しかしその公私入り乱れた混沌とした感覚も面白いともいえるのです。

■奇抜な男たち
フォーク・クルセイダーズ/紀元貮阡年 東芝EMI  深夜ラジオでブレークしたサイケ=漫才という異色グループ
 「帰ってきたヨッパライ」などおふざけムード満載
高田渡/ごあいさつ ベルウッド  アングラ・フォーク出身の名人芸
 素直でまっすぐな録音がかえって痛い笑いをよぶ
井上陽水/氷の世界 Polydor  英トライデント・スタジオで録った海外録音
 倒錯した頭がふっきれて新しいパッションを産んだ不思議な世界
あがた森魚/乙女の儚夢 URC  大正浪漫を模しながら工業化された音楽界を問う
 そういう諧謔も見え隠れするセンチメンタリズム溢れる迷作
●恋する歌姫たち
グラシェラ・スサーナ/アドロ・サバの女王 東芝EMI  外タレと呼ばれた頃に突如現われたアルゼンチン歌手
 暗く暖かい情熱が不思議と心に染みる歌唱
山口百恵/ゴールデン・ベスト ソニー  ただのアイドル歌手でなかった筋金入りの芸能人
 演歌からロックまで昭和歌謡の全てを走馬燈のように歌い切る
カルメン・マキ&OZ/ベスト KITTY  日本でのハード・ロック&女性ロックシンガーの草分け
 難解な詩に長いギターリフなど結構キテいる
ペドロ&カプリシャス/ヒット・コレクション ビクター  高橋真理が在籍してたラテン風味を加えたバンド
 ともかくバンドの力量は筋金入りでそれに負けないボーカルも聞き物
◆愛をかたるデュエット
トワ・エ・モワ/ベスト30 東芝EMI  ほのぼのフォーク・デュオのシングル・ベスト盤
 「空よ」「虹と雪のバラード」ほか
チューインガム/ゴールデン・ベスト ソニー  小学生の頃からポプコンに参加してた姉妹デュエット
 最後まで自分たちのスタイルに忠実なままがよかったかな?
★風を感じるコンピレーション
喫茶ロック/地球はメリーゴーランド ソニー  渋谷系に通じるソフト・ロック路線のコンピレーション・アルバム
 結構斬新な曲があって面白い
NAVレコード/ヒストリー1 NAV  スタ誕系のアイドル路線のためにソニーからスピンアウトした会社
 当時リリースされたシングルで歴史に埋もれた一面を垣間見る



ボーカル再生に必要な要件


Shure社のボーカル・マイクの特性
低域の膨らみはマイクの近接効果


映画館のアカデミー・カーブ
セリフだけならこれで十分リアル


 歌謡曲再生の肝であるボーカルはそれほど広帯域でなくていいです。低域は200Hzから高域は8kHzくらいで十分です。レコーディングでも100Hz付近の膨らみは明瞭度を欠くことになるので率先してカットしていて、それ以外の帯域が鳴っているというのは実は雑音以外の何者でもないようです。ということは意外に古い録音でもそれなりに聴けるもので、50年代に録音されたジャズ・バラードなどは今でも最高の音がします。

 私自身はそういう意味ではシングルコーンで試聴する機会が多いです。というより、インストを多少犠牲にしてもボーカルの抜けだしが一歩先んじないと気に入らない達。富士通テンは卵型のエンクロージャーにシングルコーンを取付けた目玉オヤジで、ボーカルはピンポイントで決まります。箱鳴きが少なく制動が効いているので付帯音がないため、音の消え際や出だしのちょっとしたニュアンスを漏らさず鳴らすのに、音質はウォームで神経質な感じがしないのが歌謡曲向きです。

 以下は参考に保有してるスピーカーです。いずれも1950年代の製品ながら、70年代以前の歌謡曲の再生には欠かせない一品です。演奏アレンジや録音方法の変換をどう位置付けるかの比較にも使えます。

ロクハン)
 フルレンジの代名詞のように云われるロクハンですが、パイオニアのPE-16Mが復刻の手の込みようがしっかりしていてこれを持ってます。もともとBTS規格の放送用モニターとしてつくられただけあって、ただフラットなだけでなくボーカルのクリアネスが優れています。中心からオフセットした特性は5kHz辺りから滑らかにロールオフするのですが、サ行の目立つ3〜5kHzでピーク・ディップが抑えられていて、分割振動の設計が無理なくできているようです。大概はロールオフする辺りは機械的なアラが出やすくて音が暴れるのですが、そうした苦労を微塵も感じさせないところが業務用の端くれとも云うべきでしょうか。高級なラジオの音という意味合いも兼ね備えています。

ライブPA)
 1940年代にデビューした汎用ワイドレンジ・スピーカーのJBL D130は70年代以降にはコンサートでボーカル用に使われたものです。再生帯域は100Hz〜8kHzまでですが、SP録音時代の古い録音だとこれだけで十分に歌ってくれます。これにAltecの劇場用ホーンをボーカル物に強いという噂をつたって加えてみました。映画音声用のホーン・スピーカーをダメ押しで被せる格好となります。これがまた文句なしに凄い。何が凄いかというと音のかじり付きが異常に速いのでボーカルが一歩前に出たように聞こえます。普通はインストに迫力を求めるとボーカルは薄っぺらになるのだが、なぜかそれが気にならないほど声の抜けだしが良い。この辺はビンテージの強みであります。ただ1950年代のユニットということでコンディションが安定しないのが難点でしょうか。


 しかし。。。話はそれほど単純ではない。

☆観測点その1)星空からのメッセージ?
 この頃のボーカル録音のほとんどはエコーに包まれたボカシ気味のものがほとんど。時は既に月面旅行を夢みるスペースエイジである。誰もが空に向かって大声で歌っていたのか?それともUFOと同じくただのピンボケか?お花畑を背景にボカシをかけたジャケ絵を見たら要チェックである。
☆観測点その2)学生の頃の秘密?
 当時は学生運動に失望した若者が社会に出た時期である。一方でGSサウンドが衰退しフォーク路線に移っていくなかで、業界関係者(プロデューサー以外にスタジオ・ミュージシャンも含めて)も新しい飯のタネに飢えていた時期でもある。その反り合うはずのないふたつの個性が手を組んだとき、「学生時代」という言葉はなぜか哀愁をこめた暗号に変わる。今になって学生の頃に何があったかは誰も言葉に尽くせない。。。しかし、その言葉が一言出れば全てがセピア色のピンナップに変わる。失恋して風にまかせて生きるのも、どこかこの空気に近い感じがある。つまりこのツブヤキを聞き取れなければ70年代の歌謡曲は塵に伏してしまうのである。
☆観測点その3)生バンドと生出演で生々しく?
 この時代は誰もが歌番をビデオ・クリップでごまかすことはなかった。生バンドの演奏を背景に生出演して芸を競う。これが歌手たるものの本望である。ということで、この時代はスタジオ・ミュージシャンの洗練された技も聞き所である。どんなにヘタなアイドル歌手にも華麗なるストリングスで飾り、立派なドラマーとベーシストでリズムが支えられてる。今この手のバンドマンは相当の実力派シンガーでないと付けてもらえない。ある意味すごく贅沢な時代である。

 さて。。。攻略法を考えてみましょう。

■攻略法その1)ガレージメーカーのおじさんに訊け
 1990年代以降、日本でガレージメーカーにスピンアウトした設計者には団塊世代の人が多いようです。実際には仕上げがイマイチとかあるのですが、かつてオーディオ・バブルからデジタル移行期を経験し、その荒波にもまれながらスピンアウトして現状のマーケティングへの批判の根底にあるのが、かつて70年代に最盛期を迎えた古いアナログ技術です。そういう人々が造る音に共通しているのは、刺激のないなめらかな質感をもったベルベットのような音です。その記憶を頼りに手作りで調整しているのかもしれません。
■攻略法その2)アニヲタに訊け
 今のアニソン業界はかつてのアイドル業界と非常によく似ているそうです。それで声の質感とか抜けの良さとかに懸命に挑んでいるのがアニメ・オタクの方々。逆にいえば70年代の成りきり歌手はリアル・コスプレの人たちで、子供の私などはサンダーバードやウルトラマンと一緒の人形ロボットと思ってたくらいで。。。ともかく狙い目は一緒のようです。ケーブルやCDプレイヤーの話題などはひとつ傾聴してみてください。
■攻略法その3)スペースエイジのデザインに酔え
 ボーカルが宇宙を漂う時代です。オーディオ機器も宇宙感覚でなければなりません。ビクターのボール型スピーカー、最近では富士通テンのものが時代感覚の濃いアイテムです。これにはとくに大意はありません。

 あまり参考にもならなそうなので次に進むことにしましょう。



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